離婚調停に提出すべき証拠ー55財産分与 親から相続した財産があるが、残存していることまで証明できない場合
離婚調停に提出すべき証拠を解説いたします。
今回は、離婚調停、訴訟等で離婚に伴う財産分与の請求がなされている場合で、
夫婦の一方の財産に、親から相続した財産が混じっているものの、親から相続した財産がそのまま残存していることまでは
証明できない場合について考えます。
離婚の際の財産分与では、夫婦の名義の如何に問わず、夫婦の収入から出来た財産が対象となります。
しかし、名義が夫婦である場合、その原資が夫婦の収入によるものであるのか、婚前からの財産ないし親から贈与、相続等を
受けたものであるのかが不明の場合があります。基本的に、裁判所は、名義が夫婦であるのであれば、裏付け資料や客観的事実(例えば、
結婚してから間もない時期に、収入に比して多額の預金が形成されている等)がない限り、夫婦の収入から出来た夫婦共有財産と認める傾向にあります
(特有財産の立証責任は、特有財産であると主張する側にあると考えられています。)。
更に、ここで問題となるのは、ある時期に親から相続したり贈与を受けたという事実を立証するのみならず、
「親から相続ないし贈与を受けた財産が、そのまま、財産分与の基準時(通常は別居開始日または離婚調停等を申し立てた時点)で残存している(=同一性を残している)事実」
まで証拠で証明する必要がある点です。
例えば、親から相続した不動産があり、そのまま相続登記を経て、財産分与の基準時においてもなお残っている、という場合であれば、
親から相続した財産があり、これが離婚の財産分与の基準時まで残存しているという事であれば、特有財産の立証が出来ており、財産分与の対象からは外れるという
事になるでしょう。親から3000万円の現金や預金を相続したものの、その現金や預金を相続時に定期預金にして財産分与の基準時にも残存しているという場合も
明らかと言えるでしょう。
対して、親から3000万円の現金や預金を相続したものの、様々なものに使っていたり、夫婦の収入等の入る普通預金に混入しているという場合、
元々の3000万円が、離婚の際の財産分与の基準時までに、どのように動いてどこに残っているのかを資料で証明することが困難な場合があります
(銀行等の金融機関の取引履歴には保存期間がある事などによります。古い通帳は捨てているという方も多いでしょう。)。
このような場合、相続した財産をそのまま特有財産として、財産分与の対象財産から差し引く事は困難と言えます。
しかし、近時、上記のように相続で取得した特有財産が夫婦名義の財産のどこにいくら残っている、と証拠で証明することが
出来ていない事案において、親からの相続により、財産分与の基準日における財産分与の対象財産が増加し、あるいはその費消を免れたことが
推認できる、として、相続により財産を取得した事情を、民放768条3項の「一切の事情」として考慮し、相手方への財産分与額を一定額差し引いた
裁判例が登場しています(東京高裁令和4年3月25日決定)。
そこで、親から相続、贈与等を受けた財産の流れの全部を裏付け資料で証明できない場合であっても、
資料がある範囲で証拠として提出し、その他、夫婦の収入や支出の推移等も証拠として提出し、
基準時に残存している財産がこれだけ多額に達しているのは、親から相続、贈与等をいくら受けた影響によるものであるから、
「一切の事情」として財産分与において考慮するべきである旨、主張することが考えられます。
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