別居期間が長いと、必ず離婚できるのか?
離婚について、双方が合意できない場合、離婚訴訟では、
法律上の離婚原因である、「婚姻を継続し難い重大な事由」が存在するか否かを
裁判所が判断することとなります。
この点、不貞行為や暴力などの明確な離婚原因がない場合に、
主張されるのが、別居期間です。
単身赴任等の事情を除いた別居期間がある程度の期間(具体的には相手方の落ち度の有無程度により、3~5年程度)
になっている場合、夫婦関係が破綻しているのか否かの一応の物差しになるとの見方は実務でも
なされているものと思われます。
それでは、別居期間さえある程度の期間に達すれば、裁判所は必ず離婚原因あり、と判断するのでしょうか。
この点は、東京高等裁判所の平成30年12月5日判決が存在します。
この事案は、夫が妻に対して離婚訴訟を起こしたものであり、
夫の単身赴任の際に、要介護の夫の父を妻と同居させたままとし、
単身赴任後に間もなく離婚の話を切り出し、父の介護を任せたまま、
妻との接触を拒絶するようになり、離婚の理由や離婚後の生活設計について全く話し合いの機会を
設けることなく、全て、依頼している代理人の弁護士を通じてしか話せない状態とした、というものでした。
1審の東京家裁は別居期間が7年に及んでいることなどから、離婚を認めました。
対して、東京高裁は、
「離婚請求者側が婚姻関係維持の努力や別居中の家事従業者への配慮を怠るという
本件のような場合においては、別居期間が長期化したとしても、ただちに婚姻を継続し難い重大な事由があると
判断することは困難である。」
「仮に、婚姻関係についての話し合いを一切拒絶し続ける第1審原告が離婚を請求する場合においても、
別居期間が・・・7年以上に及んでいることが婚姻を継続し難い重大な事由に当たるとしても、第1審原告の
離婚請求が信義誠実の原則に照らして許容されるかどうかを検討しなければならない。」
「離婚請求が信義誠実の原則に反しないかどうかを判断するには、
①離婚請求者の離婚原因発生についての寄与の有無、態度、程度、
②相手方配偶者の婚姻継続意思及び離婚請求者に対する感情、
③離婚を認めた場合の相手方配偶者の精神的、社会的、経済的状態及び夫婦間の子の監護・教育・福祉の状況、
④別居後に形成された生活関係、
⑤時の経過がこれら諸事に与える影響
などと考慮すべきである
(有責配偶者からの離婚請求についての最高裁昭和61年(オ)第260号同62年9月2日大法廷判決
・・・の説示は、有責配偶者の主張がない場合においても、信義誠実の原則の適用一般に通用する考え方である。)」
とした上で、
話し合いを一切拒絶して妻子、病親を一方的に放置して7年以上別居したとの離婚原因の
発生原因は専ら夫にあり、妻は非常に強い婚姻継続意思を持ち続けており、離婚を認めた場合には、精神的経済的に
苦しい状態に陥る上、子の監護・教育・福祉にも悪影響が及ぶなどとして、
「本件離婚請求を認容して第1審原告を婚姻費用分担義務から解放することは正義に反するものであり、
第1審原告の離婚請求は信義誠実の原則に反するものとして許されない。」
と判断しました。(本投稿時は上告・上告受理申立がなされており、判決は確定していません。)
これと言った離婚理由がないにもかかわらず、自分の親の介護を家事従業者である妻に任せたという点が
一般には支持され難いものであり、しかも高校生の子もいる状態で、離婚を認めると、苦境に立たされる、
これは正義に反するという裁判所の強い価値判断が示されているものと考えます。
自分の親の介護を任せきりにしながら、これといった離婚理由もなく別居を進め、
婚姻関係継続に関する話し合いやその後の生活設計等の構築等もすることなく別居期間のみを
根拠に離婚請求に及んだ本件について、この裁判所は厳しい味方を示しており、末尾には、
「第1審原告は、今後も引き続き第1審被告に対する婚姻費用分担義務を負い、将来の退職金や年金の一部も
婚姻費用の原資として第1審被告に給付していくべきであって、同居、協力の義務も果たしていくべきである。」
と示しています。
このように、長期間の別居期間が存在する場合でも、未だ離婚原因が存在しない、
あるいは離婚原因が存在するとしても、信義誠実の原則に反して離婚請求が許されない、
と判断される可能性が存在するため、注意が必要です。
有責配偶者の典型例は、不貞行為や暴力等ですが、最高裁判例昭和62・9・2が示した
判断基準は文中の①~⑤の通りであり、不貞行為、暴力等に限らない点にも注意が必要です。
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