調停時の注意点-⑭申立書等の書き方4 「無理のない主張」
離婚調停や婚姻費用分担調停等を申し立てる際の
注意すべき点をここでも解説いたします。
これまで、できるだけコンパクトに整理して主張を行った方が、
事件に初めて接し、ゼロから事案を把握する読む調停委員や裁判官にとっては
理解しやすいのではないか、という観点の解説をいたしました。
ここでは、「ごまかしのない主張」の重要性を解説いたします。
離婚事件等の民事事件では、主張立証を当事者が自己の責任において行う、当事者主義が採られています。
この点、嘘をつく権利というものは認められていませんが、相手方や裁判所から説明が求められていないにもかかわらず、
自己に不利な事実を自ら積極的に主張しなくてはならない訳ではありません。
しかし、相手方が当方に不利な事実の主張を行っており、しかも、結論に影響しそうな重要な事実である場合に、
これをスルーして主張を行う事についてはどうでしょうか。
この点は、政治家の答弁で、自分に不都合な事実の説明を求められている場合に、はぐらかして答えない場面を見て
皆さまがどう思われるか、と同じではないでしょうか。
むしろ、事件においては、自己に不利に見える事実、証拠が全くない、という事件の方が少なく、離婚事件でも
同様の事が多いです(夫婦間の長年の経緯等が問題となるため。)。
そうであれば、一見、不利な事実に見えても、これは、このような意味合いからのものである、とか、他にもこのような事実が
存在するから、総合的に評価すると、違う結論となる等、不利な事実も踏まえて反論を行えるのであれば有用と言えます。
また、物事の証明には、直接的な証拠(例えば、暴力をふるった際の録画データ等)がない場合、証拠と合わせて経験則に基づいて
事実を証明する必要がありますが、経験則には、ある事実があれば、通常は間違いなくある事実が認められる、というものもあれば、
ある事実があれば、ある事実が認められる可能性もある、というものまで、様々なものがあります。
弱い経験則の場合にもかかわらず、ある事実が優に認められる、などの主張することはどうでしょうか。
この点は考え方が分かれるところではありますが、城陽法律事務所では次のように考えています。
裁判官とも裁判外で話をする機会があり、その際にうかがった話や、当職自身が裁判所の調停委員をつとめている経験からすると、
当事者の言いぶんを聞く、公平中立の立場に立つ者は、当事者の主張書面を読む際に、「その主張に賛同してよいのか否か」
という点を慎重に見ることとなります。
確実な証拠があり、論理の飛躍もなく、他の可能性も認めにくい主張については、比較的、安心して主張に賛同することが
可能ですが、確実な証拠がなかったり、論理に飛躍があったり、当事者の主張する事実が認められても、他の可能性が十分考えられる、という
場合には、そのような記載に出会った段階で、「いや、違うだろう」との思考が入り込み、その後の記載についても、その論理に従って展開されている
部分については賛同し難くなります。
特に、事案をゆがめた主張、立証を敢えて行っているのではないか、と感じられるものに関しては、尚更、見る目が厳しくなります。
このような観点から、城陽法律事務所では、論理の飛躍や言い過ぎのない主張、当方に不利な点も含めて説明がなされている「無理のない主張」を
行うのが望ましいと考えており、できる限り実践しています。(依頼者の要望により、弱いかもしれないが、真実なので主張して欲しい、と
希望があるもの等に関しては、記載することはあります。)